フランス風刺画問題(その2)

被曝者を「3本腕の怪物」と見ている人について - OAF
この記事に人気が集まって賛否両論なんだけれど、上で書いたことを踏まえると賛否どっちもずれているように俺には思われる。これはおそらく福島原発事故に対して日本人の多くが持っている問題意識と、この風刺画の作者が持っている問題意識に大きなずれがあるからであろう。


すなわち日本人の多くが持っている問題意識は「事後処理」についてである。原発事故による放射能による健康被害、あるいは土壌汚染、また風評被害による差別や不買等々。つまり「既に起こってしまったことを起因とする事態への対処」が最大の問題なのだ。


この場合「被害者」は主に福島県の人達ということになる。そして「非被害者の私」が「被害者を差別する非被害者」をたしなめるという構図になっている。そしてお互いにそっちこそ差別だなんて言い合いをする。


現在の放射線量では「ただちに健康に影響はない」と言われている(それを疑うむきもあるが)。前者の問題意識は「ただちに健康に影響はない」と言われているにも関わらず、過剰な心配を持ち、被害者を忌避したり農産物を買わないという行動をする。それが差別につながるという問題だ。


しかしフランスの風刺画家が持った問題意識はそういうものではないだろう。彼が持っているのは「事後処理」のことではなく「まだ終息していない原発事故によってこれから起きるかもしれないこと」についての問題であろう。大震災直後とは違い今はだいぶ落ち着いた状態ではある。しかし汚染水問題をみればわかるように決して終ったのではない。今後も重大な問題に直面する可能性はある。


現状では「ただちに健康に影響はない」だろうけれど、今後福島原発に「想定外」の事態が発生し、大量の放射能がばらまかれて世界中に拡散するのではないかという問題意識でしょう。つまり「被害に遭った人達(福島の人々)の未来」を描いたのではなくて「これから被害に遭う(かもしれない)人達の未来」を描いたのだと思われ。


時期的に考えて、汚染水問題が発生し、安部首相がIOC総会で「状況は制御できている」という発言をしたことを踏まえての風刺であり「制御できなくなった世界」を描いたと考えるのが妥当でしょう。