噛み合わない議論

例のNHKニュースに戻るけど論点は少なくとも3点あって
1、貧困の問題
2、NHKの問題
3、彼女の問題


1の「貧困の問題」は、彼女が本当は貧困層ではないとしても、子どもの6人に1人は貧困層だという事実に変わりはない。で、その貧困というのは相対的貧困のことで、(a)相対的貧困は解決すべき問題か?(b)統計は実態を反映しているのか?等の問題で意見が分かれる


2の「NHKの問題」は、彼女は本当に相対的貧困層に該当するのかという問題。もし事実でなかったら虚偽報道になる。意図的な虚偽報道なら大問題だが、意図的でなくても報道機関として決して小さくない問題。


3の「彼女の問題」は、(a)彼女は嘘をついたのか?という問題と(b)彼女および家庭のライフスタイルの問題。(a)についてはさらに(イ)彼女のいう「貧困」は嘘なのか?という問題と(ロ)彼女の貧困経験談は嘘なのか?という問題。


(a-イ)の「貧困は嘘なのか?」については、彼女の言う「貧困」は主観的なものなのか?客観的なものなのかという問題がある。主観的なものなら彼女が自分は貧困だと思えば貧困なわけで嘘をついてるわけではない。客観的なもの、すなわち相対的貧困の定義によるものとして言っていて、それが事実でないという場合で、ただし定義を誤解してたらその限りではないから、正しい定義を知っていてその定義で貧困と言ってるなら嘘ということになる。誤解なら彼女にも過失があるし、嘘なら彼女にも批判されるべき非があることになるけれど、NHKが確認しさえすれば防げる事案だから、大バッシングを受けても仕方ないという話ではない。彼女も被害者である。ましてや主観的な「貧困」として語ったのであれば彼女に何の非もない。


(a-ロ)の「彼女の貧困経験は嘘なのか?」はキーボードと冷房の件。ネット上で疑惑が出ている。嘘なら彼女に非があるかのように見える。ただしこれも上に書いたようにNHKが確認してれば放送されなかったものではある。特に冷房は本当にあるのであれば気付くはずで不可解。なお「冷房はありません」はアナウンサーが言っているのであり、彼女が言っているのではない。単に冷房を使ってないと言っただけなのに、NHKが無いことにしてしまった可能性がある。キーボードの件だって考えようによっては彼女は嘘を言ってないけど、視聴者には違う印象を与えている可能性がある。
(8/31追記 冷房が設置されていないのは事実らしい)


(b)「彼女および家庭のライフスタイルの問題」については貧困率の「貧困」の定義は所得の話なので、所得を何に使ったかによって「貧困」でなくなるわけではない。ニュースのテーマは貧困率の定義による「貧困」の問題なので、彼女のライフスタイルがどうであろうと、所得が少なくて困っている人がいることに変わりはない(本当に定義上の「貧困」なのであれば)。ただし、彼女の部屋にあるたくさんのアニメその他のグッズを見れば、それに使った金で専門学校に行けるだろうと思うのは当然ではある(さらにツイッターにおける彼女の消費生活を見ればなおさら)。とはいえ、彼女がそんな消費生活をして専門学校に行くことをあきらめたのが貧困のせいだと思っていてもそれは彼女の思想の自由ではある。


しかし、それがテレビのニュースで貧困問題として扱われれば、それは我々の責任を問われていることになるわけで、違和感を持つ人が出るのは当然であろう。しかし、これもNHKの取材陣が気付いて当たり前のことであって、それでも「貧困」のせいだと言うのならば、ネット上の擁護者の一部が言うような理由をつけて説明をする必要があるだろう。その理由が正しいとしても、視聴者の多数がそれを理解しているとは到底考えられないから、批判者が間違っているのだとしても、そういう反応が出てくるのは当然予想できるはずのことである。


とにかく議論が噛み合っていないように見えるのは、様々な論点があるのに、単純な批判者と擁護者の対立という問題として論じている、あるいは論じているようにみえてしまう人が多いからだろう。よく見かける光景ではあるけれど。