トンデモは平等ではない

新小児科医のつぶやき - どうせぇ〜っちゅうねん!!!
これと、そこのリンク先を読むと最高裁でトンデモ判決があった(と読める)。


ところで、俺のポリシーは、「それがトンデモに見えても、あるいは実際にトンデモであったとしても、そこにはなんらかの理由が存在する」というもの。世の中に溢れるトンデモを一々逐一検証していたらきりがないので低レベルのトンデモは無視するが、ある程度のレベルに達している存在が発するトンデモは検証する価値がある。というか検証するべきである。最高裁はその要件を満たしているので検証すべきである。トンデモは平等ではない


というわけで、早速調べよう。しかし、医療について全く門外漢な俺。どうすりゃいいのか一瞬迷う。とりあえず「乳癌 最高裁」を検索キーワードにして、グーグル先生に聞いてみる。この判決が「最高裁平成13年11月27日の判例」であることが、あっさりわかって拍子抜け。


次に、裁判所の「判例検索システム」で、「最高」を選択、日付を入力して、判例ゲット。PDFなんで、適当に語句を選んでグーグル先生に聞いて、HTMLゲット。
平成10年(オ)第576号平成13年11月27日第三小法廷判決


早速読んでみるが、ここで不安になってくる。「これって本当に探していた判例なのか?最初の印象と全然違うじゃん!」しかし、一致している部分もかなりあるし、最高裁だということを考えると、やはりこれがその判決なんだろう。パラレルワールドか、はたまた黒澤明の「羅生門」の世界か。興味ある人は読み比べてほしい。


念のために大阪高等裁判所の判決も見てみたかったが、これは見つからなかった。その他キーワードになりそうな語句をあれこれ検索してわかった事の経緯。


共同通信2002年9月27日の記事によると、

  • (女性)は1991年1月に乳房のしこりに気付き、医師に乳がんと診断され、その後、新聞で乳房温存療法を知り、「できれば乳房を残してほしい」との内容の手紙を渡したが、医師は同年2月、右側の乳房を切除した。
  • 乳がんの治療をめぐり、乳房を残す温存療法を希望したのに十分な説明もなく切除されたとして、開業医に約1200万円の損害賠償を求める。
  • 一審は開業医の説明義務違反を認める(賠償額250万円)
  • 二審大阪高裁は97年、一転して(女性)の請求を棄却。
  • 2001年、最高裁が大坂高裁に差し戻し。
  • 2002年、大坂高裁で開業医に120万円の賠償を命じる(「手紙は温存療法についての説明を明確に求めたものではなかった」として250万円から減額)


さて。一番肝心なのは、「乳房温存療法」が当時日本において「未確立な療法」であったこと。これについて、最高裁

 一般的にいうならば,実施予定の療法(術式)は医療水準として確立したものであるが,他の療法(術式)が医療水準として未確立のものである場合には,医師は後者について常に説明義務を負うと解することはできない。

としながら、

とはいえ,このような未確立の療法(術式)ではあっても,医師が説明義務を負うと解される場合があることも否定できない。少なくとも,当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており,相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては,患者が当該療法(術式)の適応である可能性があり,かつ,患者が当該療法(術式)の自己への適応の有無,実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては,たとえ医師自身が当該療法(術式)について消極的な評価をしており,自らはそれを実施する意思を有していないときであっても,なお,患者に対して,医師の知っている範囲で,当該療法(術式)の内容,適応可能性やそれを受けた場合の利害得失,当該療法(術式)を 実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務があるというべきである。

と判断したのである。すなわち、怪しげな民間療法であっても説明義務があるかのようなことなんて言っていない。「支持する・しない」はともかく、出鱈目な判断であるようには見えない。


「乳房温存療法」は当時未確立であったから、「トンデモ」と呼ぶこともあるいは可能であるかもしれない。しかし、全く出鱈目なものではなく、「相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされているもの」なのである。「トンデモは平等ではない」。