患者様

プロフェッショナルはつらいよ?
経由で知った内田樹氏の記事
院内暴力とメディア(内田樹の研究室)

数年前にある大学の看護学部で講演をしたことがある。

そのとき、ナースの方たちと話す機会があった。

ナースステーションに「『患者さま』と呼びましょう」という貼り紙があったので、あれは何ですかと訊ねた。

看護学部長が苦笑いして、「厚労省からのお達しです」と教えてくれた。

そして、「患者さま」という呼称を採用してから、院内の様子がずいぶん変わりましたと言った。

何が変わったのですかと訊ねると、「医師や看護師に対して暴言を吐く患者が増えた、院内規則を破って飲酒喫煙無断外出する患者が増えた、入院費を払わないで退院する患者が増えた」と三点指折り数えて教えてくれた。

「患者さま」という呼称は「お客さま」の転用である。

医療も(教育と同じく)商取引モデルに再編されねばならないと、そのころの統治者たちが考えたのである(覚えておいでだろう。「小泉竹中」のあのグローバリズムの時代の話である)。


内田樹が面白い情報を提供したときは疑え。十中八九間違っている」というのが俺のポリシー。


なので早速調べてみた。読売と朝日が記事にしている。


○「読売新聞」

この点に関して、厚生労働省の「医療サービス向上委員会」が2001年11月、「国立病院等における医療サービスの質の向上に関する指針』なるものを打ち出し、患者に対する言葉遣いや応対の仕方を改めるため、当時の国立病院に「患者の呼称の際、原則として、姓(名)に『様』を付ける」ことを求めたとされている。つまり患者の個人名を呼ぶときに「○○さん」ではなく、「○○様」と呼ぶことを求めたものであって、『患者』という普通名詞に様を付けることを求めたのではないとしている[日本語の現場-職場で30「患者に「様」付け“行政指導”;読売新聞,第46034号,2004.5.19.]。

医薬品情報21 » 2007 » 8月 » 14


○「朝日新聞

 「患者様」という言葉は、患者本位の医療やサービス向上を意識して一部の病院で使われ始めた。01年に厚生労働省が出した国立病院のサービスに関する指針に、「患者の呼称の際、原則として姓(名)に『さま』を付する」という内容があり、広まったらしい。

伊関友伸のブログ 「患者様」ちょっと違和感 「患者さん」に戻す病院も


「患者様」「一部の病院」で使われ始めた。
厚生労働省「指針」「国立病院」に対してのものであり、「姓(名)に『様』を付ける」ことを求めたもの。


読売新聞の記事の見出しが『「患者に「様」付け“行政指導”』であり、行政が「患者様」と呼ぶよう指導したと受け取れる書き方をしているし、ざっと検索しても「厚労省からのお達し」であるかのように書いてあるものが結構あるけれど、そうではない。内田先生の記事は大学病院についてのことなので、もちろんそのような「お達し」などなかったはずだし、そもそもお達しは「患者様」と呼べというものではなかったのであった。



ところで、患者を「様」と呼ぶことと、「院内暴力」が増えたことに因果関係はあるのだろうか?


朝日の記事に、

 さらに変更の理由の一つに、院内で医療スタッフへの暴力や暴言が多発していることを挙げる。「『患者様』と呼ぶことが直接の原因ではないが、一部の人に誤った意識を助長しているような気がする」と一山副院長は話す。

とある。医療現場でそう感じている人がいるのは事実であろうが、本当にそうなのかはこれだけで結論が出せるとは到底思えない。


これがもし他のケースで、ネット住民の琴線に触れるような種類のものだったら、大炎上していた可能性は高かっただろうと思われる。というかこれも相当危ういケースだと思うんだけれど、一方で「お客様は神様か?」みたいな記事がしばしば人気エントリーになっているので、そっちと相殺されたのかもしれない。


(追記)
少し前に駅員に対する暴言・暴力が増えているという話が話題になった。
asahi.com(朝日新聞社):駅員への暴力急増 09年度869件、3年連続最悪更新 - 社会

俺的には「患者様」と呼ぶようになったとか、マスコミの「医療従事者への集中的なバッシング」などよりも、こういう話との関連性の方が高いと思う。