なぜ人は陰謀論を信じるのか(その3)

最後にこれは何度も書いたけれどピーター・ドラッカーの言葉。

一方において、彼らは反対論を認めることができない。絶対真理に対する反対だからである。他方、彼らは反対論と戦うこともできない。間違いは情報不足の結果にすぎないからである。彼らにとって絶対真理に対する反対は何かの間違いにすぎない。
(『イノベーターの条件』ダイヤモンド社

インテリは自分達の「真理」に反するものを認めることができない。ゆえにそれに反対する者がいるとしたらそれは「バカ」か「精神の病気」か「よからぬことを企んでいる」と看做す。


すなわち自分達の真理に反するものは「バカ」でも「精神の病気」でもなければ、残るのは「よからぬことを企んでいる(つまり「陰謀」)」と考えるより他は無い。陰謀の証拠は当初は見つからないかもしれないが、探せば何らかの「兆候」が見つかる。というわけで「それみたことか、奴は陰謀を企んでいたのだ!」となるというわけ。


かつてインテリによって共産主義は絶対真理とみなされていた。それを批判する者は共産主義を理解していない馬鹿なんだろう。だとすれば彼を「教育」しなければならない(第三者の目でみれば「洗脳」や「拷問」に見えるだろうが)。あるいは精神の病気なら精神病院で治療させなければならない(第三者の目でみれば彼は健常者だが)。だが馬鹿でも精神の病気でもない奴がなぜ我々を批判するのだ?優秀な頭脳と健全な肉体を持っているのに絶対真理である共産主義を間違っていると考えるなんてあり得ないではないか!だとしたら考えられるのは一つしかない。奴は本当は共産主義が正しいことを理解しているのだ。理解しているのに批判するのは正義よりも自己の何らかの欲望を優先させているのに違いない。権力欲かもしれないし敵国の反革命勢力にエサを与えられているのかもしれない。その証拠を掴んでやろう。おやっこれは何だ?怪しい。これは奴の陰謀の証拠ではないか?奴を尋問してみよう。えっただの単純なミスだって?いやいやそんなはずはあるまい。絶対に奴は黒だ。自白するまでとことん尋問しよう、正義のためだ手段は問わない。ほらやっぱり自白しやがった。我々の敵は粛清しなければならない…


最近の例ではリフレ派の中の陰謀論者がこれでしょう。リフレ政策は絶対真理である。一般庶民は馬鹿だから理解できないのは仕方ないが、優秀な頭脳が集まっている日銀がこれを理解できないはずがない。何かよからぬ理由があるに違いない。その理由を探してみよう。ほら見つかった(その手のものは大抵見つかるものであるが)。


インテリが陰謀論を唱えはじめたら、まずこういう思考があると考えるべきでしょう。