産経の書評が「江戸しぐさ」を肯定?

俺は「江戸しぐさ」をインチキだと確信しているし、産経新聞は嫌いだが、だからといってこんな批判は無茶苦茶だ。


産経の書評:江戸しぐさを肯定 朝日の書評:江戸しぐさを否定 : てきとう


産経新聞が「江戸しぐさ」を書評で肯定しているという。で見てみると、

 また、江戸時代、傘がぶつからないように、互いによけた「江戸しぐさ」や、東日本大震災直後の被災者の秩序ある行動など、日本人が培ってきた美徳にも触れた。

サンレー・佐久間進会長 人間尊重のかたち出版 - MSN産経ニュース
と書いてあるだけ。これのどこが「肯定」だというのだ?単にその本の中で「江戸しぐさ」に触れているということを述べただけではないか。


そりゃ深く突っ込めば、「江戸しぐさ」について肯定している(であろう)本を紹介すること自体が肯定していることになるのだ、と言うことも可能かもしれないが、それならそういう批判だということを明言しなければならない(ただしそんな厳しい基準で批判するなら朝日だって同じ事をやっているかもしれないということを考慮しなければならないだろう)。


紹介されている本は「江戸しぐさ」についての本ではない。北九州市の実業家が「これまでの歩みを振り返る」本だ。しかも「地方」とあるからローカルニュースだ。地元の実業家が本を出版したという話は、取引先やこれから取引先になろうと目論んでいるところにとっては重要な情報であろう。もちろん出版社の方もそういう需要を見込んでいるだろう。この報道の主要な目的はそのあたりにあって「江戸しぐさ」を肯定することではない。


そもそもこれは「書評」なのだろうか?ただの「新刊紹介」ではないか。まあ書評とは何かという定義は曖昧で、何の感想も書いてない新刊紹介でも書評と呼べるのかもしれないが、比較対象となっている朝日新聞の「書評」は原田実氏の『江戸しぐさの正体』の書評であり、「江戸しぐさ」をテーマとした本であり、正真正銘「書評欄」の記事である。前者と後者を比較すること自体アンフェアであろう。


いくら「江戸しぐさ」を否定したくても、産経新聞を叩きたくても、こういうことをやってはいけない。まあやってはいけないといってもやる人が出てくるのを止めることはできないから、誰かが批判しなければならない。そうしなければ全体がうさんくさくなってしまう。自分は参加していないから関係ないなんて言い訳は自己満足にすぎない。


(追記 7:45)

暮らしうるおう江戸しぐさ

暮らしうるおう江戸しぐさ

朝日新聞夕刊マリオンで好評連載の単行本化。当時世界最大の都市だった「江戸」。そこに集まるさまざまな人びとの軋轢やトラブルを未然に防ぐために考え出されたのが「江戸しぐさ」と呼ばれるものだ。

朝日新聞夕刊マリオンで好評連載の単行本化



(追記 11:00)

江戸商人が作った実践哲学は
現代人の生き方を支える。
(株)インテリジェンス・サービス取締役社主
江戸しぐさ語りべの会主宰
越川 禮子さん

凛(りん)として若々しい話しぶり。国際人越川さんは、何より美しい日本の財産を知っている。

(3月13日掲載、文:田中美絵・写真:南條良明)
asahi.com(朝日新聞社):就職・転職ニュース


(さらに追記 11;30)

 しかしこの江戸しぐさ文部科学省の道徳教材をはじめ、複数の教科書会社の副読本や公民教科書に掲載されたり、テレビ番組や新聞各紙(朝日新聞でも!)で好意的に取り上げられたり、大手企業に講習として採用されたりしてきた。

書評:江戸しぐさの正体――教育をむしばむ偽りの伝統 [著]原田実 - 荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト


荻上チキさんが朝日も好意的だったと書いているではないか。池上氏のときとは違い朝日批判を朝日の紙面に掲載拒否せず載せたことは評価されるべきではあろう。ただしこれをもって朝日が江戸しぐさに対して批判へと方針転換をしたということにはならない。未だに好意的な記事を公開しているわけだし。