石谷家文書の解読(その6)

石谷文書』

一 今度御請、菟角于今致
  延引候段更非他事候、進物
  無了簡付而遅怠、既早
  時節都合相延候条、此上者
  不及是非候歟、但来秋調法
  を以申上、可相叶儀も可有之哉と
  致其覚悟候

盛本昌弘氏の読み下し

一、今度御請菟角今に延引候段、更に他事にあらず候、進物了簡無きに付いて遅怠、既に時節を過ぎ都合相延び候条、此上者是非に及ばず候か、但し来秋調法を以って申上、相叶べき儀もこれ有べき哉と其覚悟致し候、

盛本昌弘氏の訳

一、信長の朱印状に対する承諾が遅れたのは進物を用意できなかったためで、特に他意はありません。しかし時節を過ぎてしまったので、この上はどうしようもないのでしょうか。ただし、秋に用意をして申し上げれば、信長の意に合うこともあると覚悟しています。

長宗我部元親は信長の朱印状に対する承諾が遅れていた。ここまでは問題ないと思う。その理由は「進物」を用意できなかったからだという。この「進物」とは何か?ということが気になるのだが、盛本氏はそれについて説明しない。普通に考えれば「他人に贈る物」のこと。茶器とか掛け軸とか馬とか鷹とかそんな感じか。これも一応問題ない(ように思われる)。


「既早時節都合相延候条」これは正直わからない。字面だけを見れば「引き伸ばしてたら早くも時機を失してしまった」ということだろうか。盛本氏は「既に時節を過ぎ都合相延び候条」としているけど「過」の文字は『石谷家文書』にない。逆に「早」の文字が消えている。


つまり「既時節都合相延候条」ではなく「既時節都合相延候条」と読むべきということか?


「電子くずし字字典」で「早」と「過」を比較してみたけれど、これはさすがに「早」の方に軍配が上がるように思われる。しかし盛本氏がこれを「過」としたのは「既早時節都合相延候条」だと読めないと考えたからではないだろうか?


「既過時節都合相延候条」なら確かに読めそうに思う。ただ「過」と本当に読めるのか?単なる元親の誤字の可能性もあるけど。他の可能性としては「早」でも「過」でも無く他の字の可能性。さらに「既早」が別の字の可能性があるのかもしれない。