オバマ演説を巡る議論について

The Associated Press: President-elect Barack Obama's remarks in Chicago

When the bombs fell on our harbor and tyranny threatened the world, she was there to witness a generation rise to greatness and a democracy was saved. Yes we can.

このオバマ次期大統領の勝利演説の訳で揉めていたようだ。


Yes you can - finalventの日記
finalvent氏が、

この米国の真珠湾に爆弾が落下し、日本の独裁が世界を恐怖で支配しようとしたとき、時の米国民が立ち上がり、偉業を達成し、そして民主主義を救うのをクーパーさんは見ていました。Yes we can。私たちにはできるのです。

とgooニュースの翻訳を「補足」したのに対して、小飼弾氏が異議を唱えた。
404 Blog Not Found:The enemy we share


確かに"the harbor"が真珠湾であることは間違いない。しかしtyrannyが指しているのは、「日本の独裁」じゃないよ。主としてナチス。少し広げて枢軸国。スターリンも入っているかも知れない。


で、俺は中学生以下の英語能力なんで、文法的なことはさっぱりわからない。でも気になるので過去にオバマ氏が何と言ってきたか検索してみたところ、今年7月の演説がヒットした。

Throughout our history, America's confronted constantly evolving danger, from the oppression of an empire, to the lawlessness of the frontier, from the bomb that fell on Pearl Harbor, to the threat of nuclear annihilation. Americans have adapted to the threats posed by an ever-changing world.

Politics & the Economy; Inflation Skyrockets; Trouble in the Air CNN.com – Transcripts

勝利演説と同趣旨のことを言っているんだと思う(多分)。とすると「tyranny」(専制政治)と「the oppression of an empire(帝国の圧制)」はほぼ同じ意味であるということになる。後者については、具体的に日本のことであることはよりはっきりするだろう。が、どちらも「日本」だとは名指ししていない(ナチスだとも言っていない)。」なぜ名指しではないのか。日本に配慮したのか?おそらくそういうことではないだろう。


無知な俺の考えることだから、鵜呑みにされても困るが、「日本の専制政治」について言っておきながら「日本」と名指ししないということ、そこにオバマ氏の、さらにアメリカ人の歴史観・世界観が反映されているのではないか。一般に日本人だったら、戦前・戦中の日本も「日本」であることに変わりはない。もちろん江戸時代の日本も、鎌倉時代の日本も、古代の日本も、それらは連続したものとして、自然に受け入れられている(網野史観のように「日本とは何か」という問いかけがあるにしても)。しかし、アメリカ人にとってはそうではないのではないか?


「tyranny」や「the oppression of an empire」は、日本の歴史が生み出したというより、「悪霊」が取り憑いたものであるかのような感覚があるのではないか(悪霊が憑依しやすい土壌があったとしても)。そして、それは日本だけではなく、ドイツもそうだし、ソ連もそうだし、イラクもそうだし、中国もそうだという感覚があるのではないか?彼らが憎むのは「悪霊」であり、悪霊に支配された人々ではない、そういう感覚があるのではないか?


そんなふうに思う今日この頃。