ホメオパシーとは何ぞや?

山口の助産婦が提訴された件でホメオパシーがネット上で大いに話題になっているけれど、俺は完全に出遅れてしまった。言及された記事もほとんど読んでいない。


出遅れてしまった理由は、(いつものように反ニセ科学の批判の仕方に気になる部分があったとしても)ホメオパシーを擁護しているように受け取られるようなことは言いたくないというのが一つと、実のところホメオパシーについて馴染みが無いし、良く知らないってことがある。


もちろん、ホメオパシーについての大雑把な知識なら、ずっと前から持っている。だけど、それ以上の細部についてが良くわからないのだ。


そんなところに、7月31日に読売と朝日がホメオパシー関連記事を書いた。
朝日・読売にホメオパシー関連記事 - PSJ渋谷研究所X(臨時避難所)


これを読んで、俺がホメオパシーの何を理解できていないのかが少しだけ明確になったように思う。


朝日の記事の冒頭にこう書いてある。

気が遠くなるほど薄めた「毒」を飲むことで病気を治す、という欧州生まれの代替医療ホメオパシーが「害のない自然な療法」と日本でも女性層を中心に人気が高まりつつある。

朝日新聞 2010年7月31日 be on saturday〈問われる真偽 ホメオパシー療法〉 (GIF 画像, 1549x975 px)


さりげなく読み飛ばした人も多かろうが、この部分が俺にはとてつもなく重要に感じる。


朝日によれば、ホメオパシー「気が遠くなるほど薄めた「毒」を飲むことで病気を治す」治療法である。


※ただし、

たとえば、最も広く利用される30Cの希釈とは10030倍希釈、すなわち1060倍の希釈を意味し、これはアボガドロ定数さえ遥かに超える巨大な数である。しかし実際に摂取する砂糖粒は小指の爪以下の小さな塊であり、この中にはもはや原成分は1分子たりとも存在していないはずである。これが、薬理学の常識とはかけ離れているとされるゆえんである。

ホメオパシー - Wikipedia
とある通り、通常は「レメディー」に科学的に言うところの「毒」は「1分子たりとも存在していないはず」だ(今回のケースがそれなのかは不明だが)。



それはともかく、繰り返すが、ホメオパシー「気が遠くなるほど薄めた「毒」を飲むことで病気を治す」なのだ。これは俺が以前から持っていた知識とも合致する。


ところで、今回の件では助産婦は新生児に投与すべきビタミンKの代わりに「錠剤」を飲ませたという。

助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。

「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴 : 週間ニュース : 九州発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


ここがわからん。


もう一度書くけれど、ホメオパシー「気が遠くなるほど薄めた「毒」を飲むことで病気を治す」なのだ。



ビタミンK問題: 助産院とホメオパシー(kikulog)
にはこう書いてある。

ビタミンKのレメディなるものがビタミンKの代わりにならないことは、ちょっとでも普通にものを考えられるなら自明だと思います。

もしも本当にレメディというものが、巷間言われるように希釈したものであるなら、それが「ただの水を染みこませた砂糖玉」に過ぎないことは自明です。


助産婦が投与したのは「ビタミンKのレメディ」らしい。これが事実なのか俺には不明だけれど、そのように書いているところをいくつか見た。


さて、この「ビタミンKのレメディ」とは何ぞや?語感からすれば、ビタミンKを希釈したもののように思える。しかし、本来のホメオパシーであれば、それはおかしい。ビタミンKを投与するのと同じ効果が得られるレメディという意味だろうか?おそらく後者だろうとは思うんだけれど…


※投与したのはこれだという話が流布している。
レメディー名:Vita-K
レメディー・自然治癒力|ホメオパシージャパン株式会社


しかし、正直、「ビタミンKのレメディ」の意味が俺には理解できない。科学的にという意味じゃなくて、ホメオパシー的に考えて(いやホメオパシーについて無知なのは承知してるけれど)。


ホメオパシーは、「気が遠くなるほど薄めた「毒」を飲むことで病気を治す」のだから、この「ビタミンKのレメディ」も「毒」ってことなのか(まあ砂糖玉なんだけど)。だとしたら「ビタミンK」は毒ではないので、ホメオパシー的にも「ビタミンKのレメディ」≠「ビタミンK」であり、それを「ビタミンKのレメディ」と呼ぶのはいかがなものかと思ってしまうのだけれど、ここのところがわかりにくい。


たとえば、
日本ホメオパシー振興会 エインズワース社基本レメディー42種キット
というのを見ると、レメディーには「アコナイト」とか「アリウム・セパ」とかの聞き慣れない名前が付いているが、「ビタミンK」のような医学上の名前ではないと思われ、しかも、「アコナイト」のテーマは「恐れ、驚きからくるショック」、「アリウム・セパ」とは「玉葱を切る時に起こる典型的な症状」というように症状が書かれている。これなら(ホメオパシー的に)理解できる。


しかし、「ビタミンKのレメディ」だったら、まるでビタミンKという症状を治療するレメディみたいではないか?強いて言えば「ビタミンK欠乏性出血症のレメディ」の方がふさわしいのではないのか?(いや、俺は無知だからおかしなこと書いてるかもしれないけど)。



もちろん、ホメオパシーと一口に言ってもいろいろあるんだという可能性もある。どっちにしろ疑似科学なんだから、そんなことはどうでもよろしいと思う人もいるかもしれない。しかし俺はとても気になる。朝日の記事は、本来の『気が遠くなるほど薄めた「毒」を飲むことで病気を治すホメオパシーが、日本で「害のない自然な療法」に変質したことを示唆しているように受け取れないこともないが思い過ごしかもしれない。