⇒天孫降臨神話の真実(その4)のつづき
日本創世神話は創世記型神話だ。
日本神話は創世記型神話とは異なった神話だというのが現在の一般的見解だが、それは神話の構造を見誤っているのである。『旧約聖書』「創世記」と『日本書紀』一書(第一)は非常に類似した神話なのだ。
そのことを理解しない限り、日本の神話研究はあさっての方向を向いたままだ。
逆にこれを理解すれば、日本神話の研究は大きく前進するはずだ。
難解な話ではない。むしろ極めて単純な話だ。これを理解するのには今までの固定観念を払拭すればいいだけのことだ。だが実際は難しいのだろう。皇国史観から戦後史学への転換が敗戦を契機としたものであったように、大きなインパクトのある出来事がなければ無理なのかもしれない。
理解しようとしない人には理解できないことなのかもしれないが話を続ける。
日本創生神話が創世記型の神話であると理解すれば、多くの謎が謎でなくなる。
イザナギ・イザナミ神話から順に書くべきかもしれないが、まずは当初のテーマであった「天孫降臨を命令したのは誰か」という問題の謎解きをする。
既に書いたように、天孫降臨を命じた神はアマテラスではなくタカミムスヒだったというのが研究者の共通認識。
それに対して、本来の神は『書紀』一書(第一)でイザナギ・イザナミに天下を統治するよう命じた「天神」だというのが俺の考え(ちなみにこれは「創世記」との類似に気付かない時点で考えたもの)。
「天神」だったものがアマテラスに変化し、さらにタカミムスヒに変化して『書紀』本文となったのだと考えた。基本的には今でもその考えに変わりはない。
ただし「創世記」との比較で重要なことに気付いた。
それはノアとその家族が地上に降りる際に二つの「神」が存在するということだ。
創造神(God)とノアだ。
一神教的に見ればノアを神と呼ばないだろうが、多神教的に見ればノアは神と呼んで差し支えない存在だ。ノアをシャーマンと位置付けることもできるだろうが、イザナギ・イザナミが「天神」の命令を受けているように、神とシャーマンは両立可能だ。
ノアに山上から降りることを命じたのは「God」だが、その命令を受けて家族や動物達に指示を出したのはノアである。
以上のことを踏まえて天孫降臨神話をみてみれば、本来そこに創造神的な神とシャーマン的な神が存在していたであろうことが推測できる。すなわち、天孫降臨を命じた神が「天神」であるならば、その命令を受けて天上の神々に指示を与えたシャーマン神もまた存在したと考えられるのである。
本来の天孫降臨神話は天神がシャーマン神に命じ、シャーマン神が神々に指示したという話だったのが、両者が合体してアマテラスとなった神話が成立した。しかしアマテラスが地上支配を命じる正当性に問題があり、かつ本来の神話が完全に消え去ったわけではなく、再びアマテラスが「天神」的機能を持つタカミムスヒとシャーマンに特化したアマテラスとに分離して、さらに今度はタカミムスヒが勢いを増してアマテラスの機能をも含有したのが『書紀』本文ということではなかろうか?
(つづく)