関越道バス事故について(その2)

事故の責任を規制緩和に求める意見は圧倒的に多い。


一方、それを否定する見解も出始めた。
規制緩和でバスの事故は増えたのか。大統領選で国民が緊縮財政にNOを選択したフランスと、増税でも解散もない日本国民の不幸| 高橋洋一ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]
バス事故は規制緩和の結果だったのか : アゴラ - ライブドアブログ


高橋洋一氏によると、規制緩和後の事故率には大きな変化はないという。

先行して規制緩和した貸切バスや遅れた乗合バスのいずれでも、懸念されるのが事故率の変化である。認可制であるので、法律上の建前としては安全基準に問題がある業者は事前チェックによって排除される。ところが、実際にそうなっているかどうかがポイントであり、もし安全基準をないがしろにする業者が参入したとすれば問題である。

二つの統計でチェックしてみても、規制緩和によって事故率が大きく増えたとはいえない。むしろ最近時点では事故率は低回傾向になっている。これから規制緩和によって事故が増加しているとはいえない。

それはそれで重要な情報だが、しかし事故率に変化が無く、高速ツアーバスの件数が増えるということは、それだけ事故が増えたということだ。確率だけで考えればいいというものじゃない。


この統計から見れば、規制緩和後に「安全基準をないがしろにする業者が参入した」ということはないのだろうと推測される。


だが貸切バスの業界が規制緩和前から違反が多かったとしたらどうだろうか?

○平賀委員 私も、運輸省から、「貸切バス事業者の監査状況及び主な違反の内容別件数の推移」という資料をもらいました。それを見ますと、平成五年度は、監査の件数が九十四者、それに対して処分事業者の数が八十四者。ですから、処分された率が八九%です。平成六年度も、百六件の監査をやり、八十二件が処分をされる、こういう状況になっています。ずっと平成九年まで来まして、多いときで約九割が処分され、少ないときでも約七割が処分をされる、こういう状況に今なっています。

 それで、保安監査の要員が、全国で合計で百五十七名ということになっています。ですから、検査をやればほとんど処分者が出る、こういう状況でありますから、こちらの体制の分野でもしっかりと整備をしていかなかったら、この安全問題というのは大きな懸念があると私は言わざるを得ないわけです。

衆議院会議録情報 第145回国会 運輸委員会 第7号


これは平成11(1999)年法律第48号 道路運送法の一部を改正する法律の衆議院運輸委員会での共産党の平賀高成議員の質問。こういう状態のところに、規制緩和前と同レベルの業者が参入して、事故率が増えてないから問題ないとは到底言えないと思う。


第一の問題はここだろう。



それと、道路運送法改正の議論を見ていて気付くのは、長距離ツアーバスについての問題がほとんど論じられていないこと。

 一般貸し切り旅客自動車運送事業は、観光のほか、修学旅行や各種のイベント輸送等のさまざまな形態の輸送サービスを提供し、これまで国民に広く利用されてきたところでありますが、近年、少人数での旅行の増加に対応した車両の小型化等ますます多様化する利用者ニーズに適切に対応していく必要性が高まっているところであります。

 このような状況を踏まえ、一般貸し切り旅客自動車運送事業について、需給調整規制の廃止を初めとする規制緩和等を通じて、事業者間の競争を促進し、多様なサービスの提供や事業の効率化、活性化を図ることが求められているところであります。

衆議院会議録情報 第145回国会 運輸委員会 第5号
という提案理由を見ても「多様化する利用者ニーズに適切に対応していく必要性」とあり、現在のように鉄道を利用するより安価だというよう消費者ニーズには触れられていない。

業界団体によると、05年に約23万人だった高速ツアーバス利用者は、5年後の10年に600万人超となるなど急成長した。

<関越道事故>規制緩和でツアーバス業者・利用者とも急増
というような状況を当時予測していたであろうか?


ここで注目すべきは事故前に国土交通省が規制強化を検討していたことだ。

 同省の有識者検討会は4月、ツアーバスも実態は定時・定路線での運行であり、高速乗り合いバス並みの規制が必要として、ツアーバスと乗り合いバスを一本化する制度改正を行うよう求める報告書をまとめており、同省は基本的にこれに沿って改革を進める。

高速ツアー運営なら、旅行会社もバス許可必要に


すなわち現状には問題があることを認識していたということだろう。


規制緩和は民間の創意工夫によってサービスの向上や新しいアイデアを生み出すことに意味がある。それは言葉を変えれば事前に予想できなかった新しいサービスが発達する可能性を意味する。それにはプラスの面もあればマイナスの面もあるだろう。マイナス面については速やかにそれに対応しなければならない。問題にもっと早く対応していれば事故は防げたかもしれない(国土交通省の対応が後手に回ってしまったのか、手続き的に限界があったのか俺はわからないけれど)。