ムハンマドの肖像画

「許す」と「赦す」 ―― 「シャルリー・エブド」誌が示す文化翻訳の問題 / 関口涼子 / 翻訳家、作家 | SYNODOS -シノドス-

この記事には他にも言っておきたいことがある。

この記事には多くの事実誤認が見られる。政治学者の池内恵氏によると、緑はムハンマドのターバンの色ではなく、そもそもシャルリー誌の表紙絵の男性も緑のターバンなど被っていないのだから、単に一般的にイスラーム教というと緑とされているから、背景に緑を用いたのだろう、という。

銃撃の政治紙「すべては許される」と預言者風刺 (読売新聞) - Yahoo!ニュース
読売記事に「事実誤認」があるというのだが、「表紙には、ムハンマドのターバンの色とされ、イスラム教徒が神聖視する緑色を使った」とある。そもそも、読売記事は「緑色」の説明をしているのであって、「シャルリー・エブド」が何を意図したかということを書いているのではないと俺には思えるのだが。


次に

また、ムハンマドの表象自体は、一般的ではないとはいえ、イスラーム世界でもかつては伝統的に存在していた。中世イランのミニアチュールなどでは、ムハンマドが描かれている。

とあるけれど、読売記事には

イスラム教ではムハンマド預言者を画像にすること自体が厳禁されている

とあり、これは確かに正確さを欠いているように思われる。ただし、

イスラム教ではもともと偶像崇拝が禁止され、ムハンマドの肖像を描くこと自体がタブー視されている。

CNN.co.jp : 風刺か侮辱か シャルリー紙最新号の表紙にイスラム預言者

イスラム教では預言者ムハンマドの肖像を描くことは禁じられていますが、

仏週刊紙が特別号 預言者風刺画 再び掲載/イスラム教徒は反発(しんぶん赤旗)

イスラム教ではムハンマドを描くことは禁止されているため、イスラム教徒からは反発の声も聞かれました。

「テロ被害の新聞社 最新号発売、各地で売り切れ」 News i - TBSの動画ニュースサイト
と読売以外でも同様のことが書かれている。


一方、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版は

 多くのイスラム教徒は、預言者ムハンマドを描くことは禁じられており、それはコーラン偶像崇拝や、「偽の偶像」崇拝につながる可能性のある全てのことを禁じているためだとしている。

仏紙風刺画は「正当化できない挑発」―中東メディア - WSJ
と書いている。これが一番適切だろう。


そもそも「イスラム教では」という書きかたでは、聖典で禁じているのか、聖職者が禁じているのか、法学者が禁じているのか、一般のイスラム教徒がそう解釈しているのかといったことが曖昧であろう。その点、WSJは「多くのイスラム教徒は」と主語がはっきりしている。


したがって槍玉にあがっている読売記事は正確さを欠くといえば欠くわけだが、じゃあ

また、ムハンマドの表象自体は、一般的ではないとはいえ、イスラーム世界でもかつては伝統的に存在していた。中世イランのミニアチュールなどでは、ムハンマドが描かれている。

はどうなのかといえば、イランはシーア派が90%と圧倒的多数を占める国である。

憲法では公式にシーア派イスラーム十二イマーム派を国教としており、他のイスラームの宗派に対しては“完全なる尊重”(12条)が謳われている。

イラン - Wikipedia

スンニ派に比べ、一般に神秘主義的傾向が強い。宗教的存在を絵にすることへのタブーがスンナ派ほど厳格ではなく、イランで公の場に多くの聖者の肖像が掲げられていることにも象徴されるように、聖者信仰は同一地域のスンニ派に比べ一般に広く行われている。

シーア派 - Wikipedia
そういう説明を欠いてるのもどうよって話ではなかろうか。



あと2ページ目にこの風刺画の解釈が書かれているけれど、まあどう受け取ろうと人それぞれだよねって思うしかあるまい。