歴史は物語

たとえば、前に書いたけど織田信長は明治以降戦前まで忠臣として賞賛されていた。それが戦後一転して古い考えを打破した反逆児としてヒーローに。今でもそのイメージは頑強に生き続けている。


あるいは、江戸時代が暗黒だったというのは、明治新政府が作り上げた歴史観であり、それが左翼史観にも受け継がれていたところ、見直しの動きがでてきた。それはいいんだけれど、今度は江戸時代は素晴らしかったという逆の歴史観が出てきて、それに対して小谷野先生のような批判者が出てきたけれど、その手の物語は未だにちらほら見かける。


最近流行の物語は、人々が「伝統」と考えているものは、実はそれほど昔からあったものではないという物語。


もちろんそういうことは実際にあるのであり、見直しが必要なものはたくさんあるのだけれど、とにかく「伝統とされるものが実は伝統ではない」という主張があれば、中身をろくに検討しないまま、そういった「物語」を受け入れてしまうという傾向がなきにしもあらずであり、しかも「それを批判するのは古い考え方を持っているからであり、自分たちは新しい見方をしているのだ」というような信念を持っていて、話を聞こうとしないということがあるからやっかいだ。


夫婦別姓」の問題もそう。江戸時代は夫婦別姓であり、夫婦同姓は伝統ではないというような主張が良くあるけれど、ここで見落とされているのは、伝統とされているものが伝統ではないといいながら、実は姓そのものについては「イエ制度」が大きく変化しているのにかかわらず、過去より連続して同じ意味(つまり伝統)があると思っていること。これについて考える場合、もっと大きな視点で見る必要がある。


ちなみに俺は夫婦別姓に別に反対というわけではない。というかあまり関心がない。ただ、この手の元々の着想は悪くはないけれどステレオタイプ化してしまった歴史観というのは気にいらない。