⇒コロポックル・座敷わらし・ケンムン・キジムナー - 北の考古学─日々の着想
東北地方と南島の小人伝説が同様のモティーフをみせるのは、これらの伝説がもともとは単一の起源に発し、さらにその成立がかなり古い時代に遡ることを示唆するようにもおもわれる。小人が姿をみせずアイヌに窓から食物を与えるというモティーフは、北千島アイヌの沈黙交易という実在の習俗に由来したと考えていたが、ひょっとすると日本列島の南北に残るこのような小人伝説がアイヌ社会にも広まっており、コロポックル伝説にとりこまれた可能性についても、考えてみる必要があるかもしれない。
学界でどう考えられているのか俺は知らないんだけれど、コロボックル伝説がアイヌ社会で独立して誕生したのではなく、世界の小人伝説と関連があると考えるのは常識的な判断でしょう。
ではコロボックル伝説のルーツは何かというのは難しい問題。座敷童子やキジムナーも究極的にはルーツが同じだとしても、それらが直接に繋がっているのかといえば、そうとは限らない。
たとえるなら大豆が味噌や豆腐や油揚げになり再び味噌汁として一つの料理となるみたいなもの。ルーツは大豆でも、それが味噌として伝わったものか、豆腐として伝わったものか、さらに豆腐が油揚げに加工されたものが伝わったのか、それらが再統一されて味噌汁として伝わったのか、さらにその再統一されたものの上に新種の味噌や豆腐や油揚げを加えるということもあるだろう。そしてさらにネギやワカメなどのルーツが異なる素材が追加されていく。そういったことが何度も何度も繰り返されて伝説が形成されていく。その形成過程を解読するのは非常に難しい。
さて、「日本列島の南北に残るこのような小人伝説」とあるけれど、日本列島の中央すなわち「ヤマト」に小人伝説が無いのかといえばちゃんとある。スクナビコナである。
大国主の国造りに際し、波の彼方より天乃羅摩船(アメノカガミノフネ)(=ガガイモの実とされる)に乗って来訪した。 『古事記』によれば、大国主の国土造成に際し、天乃羅摩船に乗って波間より来訪し、オホナムチ(大己貴)大神の命によって国造りに参加した。『日本書紀』にも同様の記述があるが、『記』・『紀』以外では『上記(ウエツフミ)』にも登場している。 オホナムチ同様多くの山や丘の造物者であり、命名神である。悪童的な性格を有するとも記述される(『日本書紀』八段一書六)。のちに常世国へと渡り去る。
外界からやってきて「国造り」という利益をもたらして去っていく。これはコロボックル・座敷わらし・キジムナーと共通したモチーフであろう(なおご存知のようにその後オオクニヌシは天孫に国を譲ることになるのだが、これも小人が去った後の没落と関係があるのかもしれない)。またイタズラ好きという要素があるかも?
コロボックル伝説等はスクナビコナ伝説が進化したもの、あるいはスクナビコナ伝説のルーツとなった伝説と類似のものが古代日本列島各地に流布していて独自に発達した可能性はある。しかし、スクナビコナ神話(のルーツ)自体が日本列島で発生したものではない可能性は十分にある。だとすれば外部から到来した神話が列島内で拡散したのではなくて、それぞれ別個に外部から到来した可能性もある。
女王國東渡海千餘里、復有國、皆倭種。 又有侏儒國在其南、人長三四尺、去女王四千餘里。 又有裸國・黒齒國、復在其東南、船行一年可至。
と記してあるのは有名な話。東方の海に小人の住む島があると大昔から認識されていた。当然こちらの影響があった可能性は大いにある。スクナビコナ神話の「常世国」も東方にあるのではないかと思われ。
ただし調査不足かもしれないけど小人がやってきてやがて去るという伝説は無いように思われ、それは日本列島特有のものかもしれない(他の伝説と列島で合体したのかもしれない)。
で、魏志倭人伝に同じく「黒齒國」という伝説上の国(当時は実在すると考えれれていたのだろうが)がある。「黒齒」を訓読みすれば「くろば」になるので、俺はこれと「コロボックル」が関係するのではないかと考えているというのはネタで言ってるわけではなくて、割とマジだったりする。なおも一つついでに「クロウハンガン(九郎判官)」説も唱えさせていただく。
⇒侏儒国と黒歯国(トンデモ) - 国家鮟鱇
なお、コロボックル伝説の存在をいつ和人が知ったのか、俺は無学だから知らないんだけれども、近世初期には蝦夷地北方または洋上に小人島があると信じられていたという。(「小人島」考・続貂 鈴木弘光)また中国の小人島伝説のルーツはおそらくはギリシャ・ローマにあり、プリニウスは小人族は「インド」にいるとしている。このインドとは現在のインドのことではなくて「東の果て」くらいの意味だという(同前)。なおコロンブスの言う「インド」も彼が勘違いしたのではなくてこっちの意味の「インド」だという説をどっかで見た覚えあり。
※ ところで「小人島」について考える場合には、同じく伝説上の島である「黒歯国」や「女国」も同時に考えなければならないだろう(さらに「羅刹島」や「雁道」など、さらに拡げれば「扶桑」や「蓬莱」さらにさらに拡げれば「ジパング」や「ワクワク」、「金銀島」そして「耶婆提国」も)。既に何度か書いたけれど「魏志倭人伝」に「女王国」とあり、これを単に女王卑弥呼の統治する国という意味で理解しているのが一般的だと思われるが、そうではないと俺は思う。さらに「黒歯国」や「侏儒国」や「裸国」などは「魏志倭人伝」では別の国とされているけれども、これらの全てまたは一部は本来「倭国(ただしさらに遡れば伝説上の国を倭国に比定したものだろう)」を指したものであって重複している可能性は十分ある。
※ また小人のことを「矮人」とも表記する。
また、「倭」は「背丈の小さい人種」を意味したという説もある。
木下順庵も、小柄な人びと(矮人)だから、倭と呼ばれた述べている。
⇒倭人 - Wikipedia
とあることを考えれば、「小人島」は日本列島のことだという認識があったかもしれない。日本は「女国」とも考えられ、あるいは「小人島」とも考えれれ、やがてそれが日本の外にあると考えられるようになったのかもしれない。
(15:00追記)
ところで外からやってきて福をもたらすといえば七福神で、彼らは宝船に宝物を載せてやってくる。中でもえびす様は蛭子や事代主神と習合しているけれどスクナビコナだという説もある。漢字で書けば「夷」「蝦夷」などとも表記され東方をイメージさせる(「戎」とも書くけれど「戎」は西方および北方)。