『太閤素性記』の類話(その6)の続き。
ところで『太閤素性記』を読むと、秀吉のことを「猿」「猿」と呼んでいる。幼名が「猿」なんだから当たり前といえば当たり前だが、これを伝説として見た場合、秀吉が「猿」なのは、猿に似ているからではなくて猿そのものであるという設定があった可能性があると思う。
グリム童話に「かえるの王さま」という話がある。
ある国の王女が、泉に金の鞠を落としてしまう。そこへカエルが「自分を王女様のお友達にしてくれるのなら、池に落とした金の鞠を拾ってきてあげよう」と申し出る。王女は鞠を取り戻したい一心で、その条件をのむ。
⇒かえるの王さま - Wikipedia
(「金の鞠」とあるのに注目)
このカエルは魔法でカエルにされた王で、元の姿に戻って王女と結婚する。醜い姿であった者が立派な人物になるという点で「シンデレラ」「灰坊」に似ている。それ以外はあまり似てない。
けれど、
⇒沖縄民話「灰坊(へーぶらー)【勝連町】」〜日刊OkiMag
を読むと、驚くべき共通点がある。
ある日、娘は、自分の両親に「私が是非夫にしたい人がこの家にいます。
その人が来たら、私は手に持っている黄金の毬(まり)を落として知らせま
す。」と言いました。
親は承知してその家で雇われている人を一人づつ娘に会わせることにしま
した。奉公人達は、それを聞くと「誰だろう。もしかすると私かな。」と
娘の前に出てくる者は、すみからすみまで立派に着飾って、娘の前に出て
きました。
娘は「黄金の鞠を落とした相手と結婚する」というのだ。娘が選んだのはもちろん醜い容姿(実は立派な青年)の灰坊だ。
これが「かえるの王様」と無関係だという方が無理がある。そしてもちろん日本にも「かえるの王様」の類話がある。
⇒徳之島の民話/カエル息子
※(下は中国の伝説。ここにも馬が出てくる)
⇒蛙の息子の話
「たにし息子」や「鉢かづき姫」の話も同系統の話だろう。
前に紹介した灰坊の「猫の面」という話ももちろん同系党に属するだろう。
そう考えると『太閤素性記』の秀吉は人間だけれど、その原型となったものには、猿そのものとして生まれた猿息子の秀吉という伝説があった可能性はあると思う。