『太閤素性記』の類話(その4)の続き。
ところで『太閤素性記』の「猿(秀吉)」と「飯尾豊前の娘」のエピソードの部分。
それより浜松へ連れ行く。豊前に対し加兵衛が云う。道にて異形成る者を見付けたり。猿かと見れば人、人かと見れば猿なり。御覧あれとて召し出す。豊前が子供幼き娘など出て是を見る。又傍らの者など是を見て笑う。皮の付いたる栗を取り出して与え、これを口にて皮を剥き喰う。口本猿に均し。それより此方彼方と愛せられ。
別に姫だけに愛されたわけではないけれど、ここで飯尾豊前の娘が登場するのは、本来は秀吉が彼女に気に入られたという話であったことが予想される。そしてここに「笑う」とあるのは重要だ。
ここでは単に「笑う」とあるだけで、それも姫だけが笑ったのではないことになっているけれど、「異形の者が城館に来て笑われる」という話の類話を考えれば、この話の原型が「笑わないお姫様」の話であると考えてほぼ間違いない。
「笑わないお姫様」の話で一番有名なのはグリム童話の「金のガチョウ」だろう。三人兄弟の弟が小人から金のガチョウを貰った。金のガチョウに触れた人は手が離れなくなり、やがて数珠繋ぎになってしまった。「笑わないお姫様」がこの行列を見て笑い、お姫様と弟は結婚した。
⇒おはなしのくに NHK教育
日本には「絵姿女房」という話がある。若い夫婦がいた。夫は妻を愛していて仕事中も妻の絵姿を側に置いていたが風で飛ばされてしまった。その絵姿を見た領主が妻を奪ってしまった。妻はそれ以来笑わなくなった。夫が物売りの姿で城下町まで来たのを見た妻は笑った。領主は妻を喜ばそうと夫の衣装を借りて物売りの姿になった。物売り姿の領主は城から追い出されてしまい、夫が領主になった。
⇒絵姿女房
そして、最も興味深いのがこの「金売り吉次の父」の伝説。
⇒炭焼藤太異聞(義経伝説)
藤太は炭焼きで汚い格好をしていた。炭を売りに馬の背に炭を積んで市場に出かけた。道で美しい姫に出会った。姫は藤太を見て笑った。姫は神のお告げで藤太と結婚するために彼を探していた。姫が金を藤太に差し出すと、そんなものは竈の側にいっぱいあると言った。藤太夫妻は大金持ちになった。
この話には「灰坊」と「笑わない姫」と「炭焼き長者」の伝説がワンセットになっている(「笑わない姫」だとは書いてないけれど原型がそうだったと考えるのが自然だ)
『太閤素性記』は「灰坊」と「笑わない姫」がワンセットになっている。
そう考えてよいだろう。